「会議」は本当に悪者なのか?
「会議」には、とかくネガティブなイメージがつきものです。
時間の無駄、面倒くさい、退屈、非生産的、などなど。
ではあるのですが、「営業会議」について少し私の経験を書いてみたいと思います。
まず、私はとても対照的な2つのタイプの「営業会議」を経験しました。
どちらも「営業部門の営業会議」で、週1回・1時間半で開催されている会議でした。
まず、最初はこんな会議。
営業担当者が「今週の営業活動」について「営業部長」に報告する会議です。
具体的には、この1週間「どのお客さんのところへ行って、どんな提案をして、その成果はどうだったのか?」と、「提案中の案件(仕掛り案件)の進捗状況はどうなのか?」の2点。
例えば、こんな感じです。
営業のAさん
「今週は、A銀行とB銀行に行ってきました。A銀行では営業企画部の〇〇課長と会い、当社の△△(金融商品)の提案を行いました。〇〇課長は、「検討しておく」とのことでしたので、来月再度訪問する予定にしています。B銀行は・・・」
これに対して、営業部長から、
「ご苦労さん。A銀行は先月から□□ファンドの取り扱いを始めているから、その売れ行きや本部の反応なども聞いといてくれよ。」
といった感じで、部長のフィードバックがある、というイメージで会議が進んでいきます。
営業担当者が、このようなイメージで順番に報告を行っていきます。
この会議の最大の特長は、「会議でメリットを得ているのが部長だけ」という点。
部長が「現状を把握する」という以外に、この会議のメリットはありません。
部長以外の出席者は、部長が「現状把握」をするために時間を使って説明をしている、という構図です。
なので、出席者にとっては時間の無駄、面倒くさい、退屈、非生産的、となります。
一方、もうひとつの会議は、少し雰囲気が異なります。
営業担当者が「今週1週間の営業活動」を報告するところは同じなのですが、報告する相手は「会議の参加者全員」です。
そして、報告するのは「営業活動と成果」だけでなく、その過程で得た情報や洞察を会議に持ち寄る、というイメージです。
そして、それを聞いた他の参加者(部長や営業担当者)が、自分の情報や洞察と重ねることで営業成果を出すための新たな発見を目指しているイメージです。
例えば、こんな感じ。
営業のBさん
「先週X銀行とY銀行に行ってきました。X銀行では〇〇ファンドの提案をしたのですが、反応は鈍かったです。それで突っ込んで聞いてみると先方から『実は、新興国の債券ファンドに関心がある』という話が出てきました。翌日Y銀行に行った際に『新興国の債券ファンドをどう思いますか?』と質問してみると『とても関心が高い』とのこと。先日、大手のA銀行が新興国の債券ファンドを出したことが引き金だと思います。もし、売れ行きがいいようであれば、多くの銀行が追随するのではないか、という感触を持ちました」
すると、別の営業担当者が、
「私も先週Z銀行に行った際に、新興国の債券ファンドの話を聞きました。担当者は『A銀行に先を越された!』とかなり残念がっていました」
また、別の営業担当者が、
「A銀行の新興国ファンドの売れ行きがいいようであれば、他の銀行にも一気に広がる、という可能性は十分にあります。なので、当社も新興国ファンドの提案をしていく必要があると思います。当社の新興国ファンドは評価が高いので大きな強みになるはずです。しかし、既に出遅れている場合には、『その次』を見据えたファンドの準備をする方がベターだとも思います。なので、この1週間はその見極めのための情報収集をした方がいいのではないでしょうか?」
と、こんな感じで会議の参加者は自分が得た情報や洞察を持ち込み、それを他の参加者と一緒にディスカッションすることで、断片的な情報をつなぎ合わせパズルを解読したり、情報の背景にあるより重要な動きを見出したりしていました。
この会議の位置づけは、シンプルに「営業の成果をあげるための情報交換の場」でした。
そして、そのメリットは「会議への参加者全員」だと。
実は、後者の会議を行っていた営業部門はその営業力で有名な部署で、営業成績は圧巻の数字でした。
その営業力を支えた大きな要因のひとつが、間違いなくこの営業会議だと思います。
「会議」はよく悪者にされますが、やり方次第では部署の生産性を飛躍的にあげる「すごい装置」ではないか、と常々考えています。
そこで、生産的な営業会議が成り立っている場合の共通項を考えてみました。
共通項①
会議の目的が明確で、それは「参加者全員のため」になっている。
定期的に行われる会議の場合、その会議の目的がやや不明確になっていたり、一部の参加者のみにメリットがあるカタチになっていたりする会議が案外多いように感じます。
会議の目的を、全員がメリットを受けるカタチに再定義するだけで、その会議の効果はかなりアップするのではないか、と考えます。
共通項②
フランクなディスカッションができる環境がある。
声の大きな人だけが発言する会議というのも、案外多いようです。
そこから得られる成果はとても限られます。
参加者の誰もがフランクに話ができる会議にするには、どうやら「会議のルール」が肝になるようです。
特に、「全員参加」と「異なる意見の推奨」の2つ。
「全員参加」の意味は、物理的に出席しているということではなく、「知」の面で貢献をしているということ。
具体的には、自分の意見や洞察を必ず言う。
他人の意見や洞察を、自分の知見と重ねながら真剣に考える、ということ。
言い換えると、会議の生産性に誰もが貢献している、ということです。
これが、「会議に参加する」という意味。
「異なる意見の推奨」とは、「異なる意見を言うことは、他人への攻撃ではない」ということを参加者がしっかり理解すること(これは、企業文化のレベルの話ですが)。
これがないと、異なる意見を言うことがかなり憚られます。
そして、ディスカッションのクオリティーがどんどん落ちてきます。
いろいろな意見が出ることが、生産性の高い会議の必須条件ですので、「異なる意見を言うことは、他人への攻撃ではない」というマインドセットはとても重要です。
共通項③
結論を出すこと。
いろいろな議論がなされた後で、「じゃあ、〇〇でいこう!」、「〇月〇日までに、やり切ろう!」とやるコトと期限を決めること。
これがないと、単なる「頭の体操」になってしまいます。
また、その結論は次回以降の会議で必ず「モニタリング」と「検証」されることも必須です。
生産的な会議には少なくともこの3つがあったように感じます。
そして、この3つを意識しながら「営業会議」を行うことで、その営業部の能力はすごくアップする、という実感を持っています。
多分、営業会議はすべての営業部で行われていると思いますので、ぜひ実践してみて下さい。
営業チームは、「優秀な営業マンの集合体」がいいのか、「普通の営業マンを仕組み化」する方がいいのか?
強い営業チームは会社の肝になります。
これまでに2つのタイプの強い営業チームを見てきました。
どちらが、より強いチームなのでしょうか?
そして、経営者としてはどちらを目指すべきなのでしょうか?
最初のタイプは、優秀な営業マンを雇って、それぞれに自由に動いてもらうような営業チーム。
なので、
【優秀な営業マンAさん + 優秀な営業マンBさん + ・・・】
という足し算のチーム。
もうひとつのタイプは、チームは普通の人材で構成されているが、一人ひとりが役割分担していて、みんなが協力しながら営業の仕組みを回すようなチーム。
例えるなら、
【(普通の営業マンAさん + 普通の営業マンBさん + ・・・)× 仕組みの威力】
という掛け算が入るイメージのチーム。
以前勤めていた外資系投資銀行にめちゃくちゃすごいチームがありました。
業界でも有名で、「そこにいた」と言えばどこへでも好条件でヘッド・ハントされるような花形部署でした。
そこは、前者でした。
そこのマネージャーはもともとめちゃくちゃ優秀な営業マンで、毎年ダントツの営業成績をあげておられました。
マネージャーに昇格した後、同業他社から優秀な営業マンを引き抜き、更にチームを大きくしていきました。
そして、前者のイメージの「超優秀な営業マンの集合体」を作り上げました。
超優秀な営業マンの集合体なので、チーム・メンバーの(その部署の一員であるという)誇りは非常に高く、よってモチベーションもとても高く、競争心は尋常じゃないくらい凄くて、それらが相乗効果となりさらにすごい成績をあげるチームとなっていました。
傍から見ていて、この方法「あまり外れのない手堅い方法」と映りました。
一方、私がいた部門の海外オフィスの事例ですが、「役割分担をして、営業を仕組み化している」すごいチームがいました。
営業を大きく3つの役割に分けて、新たな顧客候補との接点を作る担当(マーケティング)と、接点を持てた顧客候補を「顧客」とするクロージングの担当(販売)、そして晴れて「顧客」となったお客さんに資産運用のサービスを提供する実務部隊(運用サービスの提供)です。
(顧客のリレーションシップ管理は、クロージング担当がやっていました)。
チーム内では常にコミュニケーションをとって、より効果的な方法を模索していました。
全員が情報収集するので情報のインプット量もすごく大きくなりますし、それをチーム全員で議論するので“料理の仕方”も洗練されます。
そして、仕組み化することでもの凄く効果的に機能する流れが出来上がっているようでした。
また、新規開拓営業などは「とても苦しい営業(特に、精神的に)」の代名詞ですが、仕組み化することで精神的な負担はかなり軽減されているようでした。
― うまく出来れば効果は高いが、外れも多い「仕組み化」というやり方 ―
後者のタイプが、私にとっての理想の営業チームに映っていました。
が、大きな課題もありました。
予想される通り、「仕組み化の設計」はとても難しく、そこが下手だとまったく機能しない営業チームになってしまいます。
機能しない上に、理屈や批判ばかり言って手を動かさない人の集まりになってしまうケースも多々あるようでした。
営業担当者が最初の顧客接点からサービスの提供までを一気通貫で担当しないので、責任の所在があいまいになることが多いようです。
また、前後の工程の担当者間ですり合わせがうまくできない場合もあり、工程を経る度に多くの見込み客が離れていってしまう、という状況もあるようでした。
なので、「うまく出来れば効果は高いが、外れも多いし、うまくやれるまでに時間もかかる」ということになるようでした。
もちろん、業種やそれぞれの企業文化によってもどちらがフィットするかは変わってきますので、一般化するのは難しい判断だとも思います。
しかし、経営者として「強い営業チーム」を目指す場合、どちらのタイプを目指すべきなのか?という大きな疑問があります。
複雑な仕組みなどは考えず、「まずは、優秀な営業人材を集めていく。そして、育てていく」というシンプルな作戦。営業力が足し算的に確実に積み上がるので、堅実な方法です。
しかし、「優秀な営業マン」というのはそんなにいませんし、直ぐに採用できるものでもありません。また、普通の人材を優秀な営業マンに育てるのも、かなり高度な技術が必要になります。
一方で、「普通の営業マンを仕組み化する」のは、「人材の確保」という最も難しい部分に依存する割合が低いので、(「仕組みの設計力」という難しいパーツが必要になりますが)強い営業チーム作りには近道になるのではないか、とも感じます。
また、これは営業チームに限ったことではなく、他の部門・部署でも「よく機能するチームをどのように作るか?」という話ですし、営業のような「個人の足し算」で動いていない部門にとっては「仕組みこそが命」ともなりますので、とても重要なポイントになると思います。
結論として、「強いチームのための仕組み作り」はとても難しいチャレンジですが、トライする価値のある試みではないか、と思っています。
そして、その「仕組み作り」について、今後のブログで経験談をまとめていきたいと思います。